熱力学・統計力学
熱力学・統計力学について見ていきます。
熱力学と統計力学を一緒にするのは、学問として近いものがあるからです。簡単に言うならば、熱力学を厳密に分子レベルで見ていくのが統計力学とも言えます。高校までの範囲ならば、統計力学は気体分子運動論のところです。(よく誘導がついて問いてくやつですね)
熱力学自体の歴史は非常に古く、電磁気学よりも古いです。有名なボイルの法則は17世紀。なんと古典力学とほぼ同じごろとなります。その後、18世紀後半から産業革命が世界で広がり、熱力学は、「いかにして効率良く熱を取り出すか」という背景により発達しました。こういったように歴史的背景と、物理学が密接につながっている場合もあります。
昔は、熱は「熱素」というものが生み出しているものと考えられていました。熱素が多いから熱く、熱素が少ないから冷たいといったようなところです。
しかしご存じの通り、熱とは分子の運動によって起こされるものであります。
熱力学は、少し曖昧な学問とも言えます。まず扱っている対象がマクロな系(非常に大きいくくりということ)ですので、厳密なところは説明ができません。
それに対して統計力学は、一つ一つの分子に着目し、それらの動きを統計的に扱うことで、完成されている熱力学を厳密に焼き直していくというのがメインになります。(もちろんその後さまざまなことに応用されています)。ミクロな系で見ていくということですね。
統計力学は厳密に扱っているように見えますが、「分子がこういうように動くと仮定する」というように、ある確率のモデルの元に成り立っているので、正確に分子の動きをあらわしているわけではありません。
「このように仮定すると、熱力学との整合性がとれる」というように、熱力学に合わせるように仮定(確率モデル)を組み立てていくのです。
この確率モデルを使って、さらに応用していくわけです。
結局のところ「熱」というものを厳密に表すことはできないわけですね。っというか、三体問題ですら解けないのに、全ての粒子の運動を正確に記述することなんて現実的に不可能です。
熱というものを大きないれもので考えるのが熱力学。小さな粒の動きを、確率モデルに当てはめて考えるのが統計力学ということです。
学習の順番としては、必ず熱力学から始めましょう。
熱力学の内容ですが、式としては電磁気学よりもだいぶ楽になります。しかし概念が非常に難しく、特に初学者は「エントロピー」というものに必ず戸惑います。似た用語で「エンタルピー」も出てきますが意味が全然違うので注意です。
エントロピーは散らばり具合だと思ってください。アツアツのラーメンは放っておくと冷えます。しかし冷めたラーメンがアツアツになることはない訳です。冷たいものも同じです。当たり前ですが考えると不思議ですよね?こういったものを表現するためにエントロピーを使います。
「アツい」というものは一か所にあるだけでなく、時間とともに散らばっていくと考えるのです。散らばり具合のことをエントロピーというのですから、時間がたつにつれて、エントロピーは必ず増えているということです。これをエントロピー増大の法則といいます。
この他にも、ヘルムホルツの自由エネルギーだったり、ギブスの自由エネルギーだったり、似たような単語や概念がたくさん出てきます。
勉強しても、何が何だかよくわからなくて、「えっ、結局何が言いたいの?」みたいなことはよくあります。
こういったことは、統計力学を勉強すると、ある程度分かってきたりするので、とりあえず統計力学に進んで、後から戻ってみても良いかもしれません。
統計力学は、統計というだけあって、確率や統計の数学的なものが入ってきます。と言っても高校の数学に毛がはえたぐらいのものなので、特に注意しなくても良いです。おそらく統計力学の参考書にそういった数学的な導入がかかれているので。
さて、実は電磁気学・熱力学・統計力学を組み合わせて考えることによって量子力学にだんだんと近づいていきます。
古典的な考えのまま統計力学を適用すると、計算結果に矛盾が生じてしまうのです。
この辺の今までの知識を総動員して量子力学という新たな学問を生み出す過程は本当に面白いのでぜひ味わってほしいです。
参考書
おススメ度★★★★☆
難易度★★☆☆☆
自分はこの参考書を使って勉強しました。特に癖もなく標準的な参考書と言えます。熱力学という学問は非常に抽象的なものを扱っているので、とても分かり辛いです。他の分野よりも本によって表現の仕方に差がでる学問だと思うので、様々な本を読む必要があります。この本は古くから整理されている熱力学をお手本通りに表したものと言えます。
おススメ度★★★☆☆
難易度★★★☆☆
こちらも名著です。立ち位置としては上の本と同じです。原島さんの本は癖が少なく、初学者が挑戦する本としては良いものです。統計力学とセットとなっているので難易度は少し高め
おススメ度★★★★★
難易度★★★☆☆
熱力学はすでに完成された学問として世界に広まっています。上の二つの本はある意味その通りに書いたものですが、この本はその熱力学を田崎先生なりに練り直して、再構築したものです。なので本を開いてもらえば分かりますが他の本と構成が大きく違い、初学者には向かないでしょう。しかし一回基本的な熱力学に触れてから、この本を読むと、あまりに抽象的すぎる議論の多い熱力学に一本の柱を通すように、一貫した説明がなされていて感動します。本当に読むべきです。まさに現代的な視点からというところです。ただいきなりこれを読むとありがたみが良く分からずに終わるでしょう。大学の授業の対策にはなりませんので注意。
おススメ度★★★★☆
難易度★★★★☆
この本も著者の清水先生が、熱力学というものを新たに練り直して出版したものです。田崎さんのものと違った視点なので、どちらも読むと良いと思います。ただ難しいので初学者には向きません。
おススメ度★★☆☆☆
難易度★★★★★
昔の学生はみんなこの本で熱力学と統計力学を学んだそうです。ただこの本は演習書ですし、すごく厚いし、今は熱力学・統計力学共に優れた参考書があるので、大学院入試の前に演習したり、統計力学専門にする人がやるものです。
おススメ度★★★★★
難易度★★★☆☆
統計力学に関してはこの本をやれば間違いないです。というかあまり他を探してない…、というくらい評判もよく、読んでいて疑問があまり残らない本です。読者のレベルに対しての配慮もあり、最終的には前期量子論のところまで含んでいます。ただ何点としては、量子力学の内容を前半から含んでいることです。統計力学はミクロな世界を扱うので、古典力学ではなくて量子力学を扱うのは当然といえば当然なのですが…。前半に簡単な量子力学の説明がついていますが、キチンと量子力学を少しやってからでないととても読む気にはなれないでしょう。量子力学について簡単にやってから、1冊読み、量子力学をしっかりとやってから2冊目をやるというのが賢い順番です。
田崎さんのものがでるまではこれが一般の教科書だったみたいです。使ったことないのでよく分かりませんが一応
統計力学は特に実際運用してみてありがたみが分かる学問です。大学の図書館などに置いてあると思うのでコピーしてやってみるといいです。
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