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熱力学の視座

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今回からいよいよ内容に入っていきます。といってもまだ法則については扱いません。今回は熱力学という学問について、その考え方を掘り下げました。一度でも読んでおけば、熱力学の方針が読み取れ、その後の学習がやりやすくなるのではないかと思います。

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熱力学の視座

だいぶ前に書いた記事(長いので興味のある方以外は読まなくて大丈夫です)

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で、僕なりの物理学として「物理学とは自然に対する視座を与える学問だ」と捉えました。

視座とは物事を見るときの視点と姿勢を合わせたものです。まずは、熱力学の視座とは具体的にどのようなものなのか明らかにするところから始めたいと思います。

視座とは視点と姿勢を合わせたもの。

視座=視点+姿勢

この両者のアプローチから、熱力学というものを見てみましょう。

視点

熱力学は統計力学と違い、マクロ視点でものごとを見ます。ものの状態を大雑把に眺める視点です。

熱力学では、ものが持つ最も大雑把で根本的な共通性質に注目します。そのためには、「もの」とは何なのかという定義が重要になります。

もちろん、ものを細かく見れば、分子や素粒子にたどり着きますが、熱力学はもっと大雑把にものを見ます。人間が直接感じられる範囲で構成されているのが熱力学なのです。

熱力学はマクロ視点でものを見る
どうやって「見る」?

では、人間が「ものがあるな」と感じるとき、どのような判断をしているのでしょうか。

ざっと周りのものを見渡してみると、それらの持つ「形がある」という性質に関係しているように思えます。これは、一見ものが持つ共通性質として認めてもいい気がします。しかし、よく考えると、世の中のものは形があるものばかりでは無いことが分かります。

例えば水はいろいろな形をとることができます。ペットボトルに入っている水はペットボトルの形になっていますが、コップに注げばコップの形に変形します。同じ水でもめまぐるしく形が変わるのです。

一定した形があるのは、いわゆる固体に限られた特性です。

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では、もっと一般的に「見える」という性質ならどうでしょう。これならさっき問題になった水も持っている性質です。

しかし、よく考えると世の中には見えないものもまた、存在することがわかります。例えば空気や二酸化炭素です。一般的に屈折率が低く、可視光線を発していないものをわれわれは見ることができません。

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視覚で感じ取ることのできるものがこの世のすべてではないことは分かりました。ではこういった目に見えないものをわれわれはどうやって感じているのでしょうか。

人間の感覚は五感によってもたらされます。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚です。聴覚では音を発していないものを感じることができません。嗅覚は匂いを、味覚は味を持っていないものを感じることができません。視覚はさっき説明した通りです。

では、触覚はどうでしょうか。空気も、水も、それ以外ものも、あらゆるものは触ることができる気がします。逆に触ることができない存在を「もの」として認めることはできません。触覚こそが、ものの持つ共通性質として認められるべきでしょう。

そして、熱力学の対象としての「もの」のことを、これからはと呼びます。そのほうがギョーカイ人っぽくてカッコイイでしょ。

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追記:マクロな視点って要はどういうこと?という質問がありました。ここでの意味は「触覚に注目する視点」と捉えていただいて構いません。物質を注目するのに、素粒子のような小さい部分から注目するのではなく、ざっくりと、触ったときの感覚に注目して世界を見てみようということです。

マクロ視点での「もの」とは触覚で感じることができる存在=系
何を「見る」?

では、触覚でわれわれは何を「見て」いるのでしょうか。試しに目をつむって、口を閉じ、近くにあるものを触ってみます。

まず、手触りを感じます。クッションに触るとふわふわしていますし、水に触れるとぽよぽよしています。

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これは、皮膚の表面にあるマイスナー小体というものが圧力を感じるからです。これのお陰で、触覚では圧力を感じることができます。

また、暖かさを感じることもできます。犬に触れると暖かいし、氷に触れると冷たく感じます。

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これは自由神経終末というものが温度を感じるからです。これのお陰で触覚では温度を感じることができます。

更に、ものの大きさも感じることができます。ものの外側全部をぺたぺたと触れば、どれくらい大きいのか知ることができます。

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触覚では体積を知ることもできます。水や空気の場合、形は変わってしまいますが、体積は変わりません。

これらの要素(圧力・温度・体積)は、同じ系が同じ状態ならば、同じ値になります。

このように状態を一つ決めれば、系に対して一つの値が定まる量を状態量といいます。温度も、圧力も、体積も、状態量です。

熱力学では、これらのような触覚で感じることのできる状態量を扱い、展開していく学問です。

熱力学は状態量を扱う
状態量={圧力、温度、体積、その他}

姿勢

続いて視座の中の姿勢について、見てみましょう。

熱力学の限界

熱力学では触覚で感じる状態量を通して系を見ますが、この時に少し困ったことが起こります。

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例えば、地球上の大気全体を熱力学で扱おうとしたとき、その温度は何度になるのでしょうか。北極はマイナス20度になるほど低温で、赤道直下は常に25度以上を保っています。場所によって温度が違うのです。温度が一つに定まりません。

圧力も場所によって大きく変化します。まして、圧力を細かく見ると、単純に一つの値では表せないことが分かります。

例えば、西風が吹いているときは風による圧力(つまり風圧)が西から東に向かってかかっています。風圧を表すにはその大きさだけでなく方向も必要になるのです。

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このように、大気は一つの温度、圧力を持っているとは限らないことがわかります。この原因は、大気が激しく動いていて、均質ではないことにあります。要は状態や系が一つに定まっておらず、めまぐるしく変化しているのです。

このようなとき熱力学は、ほぼ無力です。熱力学が厳密に適用できるのは状態量が定義できるような状況だけです。状態量を定義するには、状態と系が一つに定まっている必要があります。要はものが入れ替わらず、均質になっていなければならないのです。

このような状態を熱平衡状態といいます。熱平衡状態なら状態量を一つに定めることができます。

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熱力学は熱平衡状態以外ではほぼ無力
熱力学のすごいところ

熱力学は基本的に熱平衡状態以外では無力です。そんなものに価値はあるのかと思う人がいるかもしれませんが、その分必要な変数が少なくなるようにできているのです。

例えば人間が手で持てる大きさの固体には、大体1兆の1兆倍くらいの量の分子入っています。

そのすべての分子の動きをニュートン力学の運動方程式で記述するためには、同じく1兆の1兆倍くらいの変数が必要です。それを熱力学では高々3つか4つの変数で表すことができるのです。これは圧倒的な圧縮率です。

一兆の一兆倍なんて、おおよそ想像もつきませんが、一年間に世界中でやりとりされている情報量が大体1兆×1兆バイトくらいらしいです。一方でテキスト二文字くらいが4バイトに相当します。

つまり、熱力学による変数の圧縮は、インターネットの全情報量をたった二文字に圧縮することに相当します。

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そんな圧縮をおこなっても、熱平衡状態での熱力学の予測はニュートン力学や量子力学の予言とほぼ一致します。熱力学は厳密性より圧倒的な効率性、利便性に重きをおいた学問です。実際、ミクロな視点の統計力学では、膨大な数の変数を用意する必要があります。

熱力学は圧倒的に少ない変数で自然を見ることができる

本記事のまとめ

長々と書きましたが、結局この記事で言いたかったことは、

  • 熱力学ではマクロ視点でものを見る
  • 熱力学は{圧力、温度、体積}などの触覚で感じ取れる状態量を中心に論を展開していく学問である
  • 熱力学は熱平衡状態以外ではほぼ無力だが、その代わりに変数を極限まで少なくすることができる

です。次回は熱平衡関係を表す熱力学第零法則について扱っていきます。

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