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今回は温度を定義する熱力学第零法則について書いていきます。
熱力学第零法則は、もう一言で言えば「熱平衡」について定義されたものです。これはあまりにも当たり前の概念なため、教科書によっては無視されていることも多いのですが、そこから様々なことを示したりもできるため、一つの記事として独立して書いていきます。
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熱力学第零法則
熱平衡
熱というのは漠然とした概念でありますが、熱特有の概念があります。それがこの「熱平衡」という概念です。
温度計の存在
熱平衡状態によって、厳密に温度を定義することができます。温度を定義する熱力学第零法則の内容は以下のようになります。
系Aと系Bが熱平衡関係で、系Aと系Cが熱平衡関係ならば、系Bと系Cも熱平衡関係になる。
ここでの熱平衡関係とは、
- いくつかの系を合わせて一つにした系が熱平衡状態にあること
をいいます。
教科書では単に「熱平衡」と書かれることも多いですが、熱平衡状態と区別しにくいと感じたので、この場だけのローカルルールとして「熱平衡関係」という言葉を定めておきます。
上のPOINTを図にすると、こんな感じです。
系Aと系Bが熱平衡関係にあるということは、AとBが均質ということです。このとき、AとBの温度は均一になっているはずです。つまり、Aの温度とBの温度は等しくなります。
同様に系Aと系Cが熱平衡関係にあるならば、AとCの温度も等しくなります。第零法則では、このときにBとCの温度も等しくなることを要求しています。
ここまで書いたものを読むと、「だから何?」と思うと思いますが、実はこの定義によってはじめてAを温度計とみなす事ができます。
温度計Aで系Bと系Cの温度が同じ値だと示したら、系Bと系Cの温度はどんなことがあっても同じ値になります。第零法則は温度計が存在することを導いているのです。言ってしまえば、ただそれだけです。
さらに詳しく(とばしてもOK)
さらに論理をのぞいてみましょう。ここからはちょっと数学の話になるので、読み飛ばして頂いても構いません。
第零法則のような論理の形を数学的には推移律といいます。
また、熱平衡関係は反射律(系Aと系Aは熱平衡関係)、対称律(系Aと系Bが熱平衡関係ならば系Bと系Aは熱平衡関係)を満たしていることが熱平衡関係の定義から推測できます。よって、熱平衡関係は反射律、対称律、推移律を満たすことがわかります。
これらの反射律、対称律、推移律を満たす関係のことを同値関係といいます。ある意味で同じものだとみなしてもよいという関係です。ほかの具体例として等号(=)や相似(∽)があります。
第零法則は熱平衡関係を同値関係として認めることを表しているのです。
ここで注目してほしいのは、第零法則では等しい温度の場合しか定義されていないことです。温度が異なる場合をどう定義するかは、使う人が自由に決めてもよい形になっています。その結果として、温度には距離や時間よりも多様な尺度が存在しています。
示強変数と示量変数
熱力学第零法則は、温度の存在を表しているものでした。
温度計が存在することをそんなに改まって説明されても、何がすごいのかピンときませんね。温度計の存在なんて、あたりまえじゃないかという人がいるかもしれませんが、これはかなり特別なことなのです。
なぜかというと、温度というのは系の一部を測ることで系の全体の状態を知ることができるからです。
例えば、温度計が測定しているのは系の中のほんの一部の温度ですが、その結果は熱平衡状態の場合、系全体の温度を表しています。これは系をどのように分割しても状態量が変化しないという性質が関係しています。
↑温度は、温度計に触れている部分しか計れないが、温度は熱平衡状態なら系のどこでも同じという性質があるため、温度計は機能する。系を2つに分けたとしても、それぞれの温度(状態量)は変わらない。
上で述べた「温度計」に対して、「体積計」のような装置は作ることができません。たとえ任意の系が熱平衡関係であっても、体積は違っている場合があるからです。体積は、系の部分ではなく、系全体について考えたとき、はじめて意味をもつようになります。
これは、体積の系を分割すると、それに比例して状態量が少なくなるという性質が関係しています。
↑体積は温度と違い、系の一部を見たところで計ることはできず、系全体を見る必要がある。系を2つに分けると、当たり前だが、体積(状態量)は少なくなる。
温度や圧力のように、
- 熱平衡関係ならば系をどのように分割しても変化しない状態量→示強変数
といい、体積のように
- 系を分割すると、それに比例して少なくなる状態量→示量変数
といいます。
温度計や圧力計のように一部に触れさせて全体の状態量を計る測定機器は、示強変数にしか作ることはできません。
示強変数={温度・圧力など}
示量変数= {体積・内部エネルギー・エントロピーなど}
もう少し今回の内容に付け足すと、示強変数=系の一部で計れる、示量変数=系全体で計る、とも言えます。示強変数は系の一部で計れるので、例えば僕たちの肌で感じることができるとも言えるでしょう。僕たちの肌で、部屋の体積を感じることはできません。
本記事のまとめ
この記事全体のまとめとしては、
- 熱力学第零法則は熱平衡関係同士の系の関係を表し、今後の熱力学の議論の基礎となる
- 状態量は示強変数と示量変数とに分かれ、熱平衡状態の系を分けたときに変化しない状態量を示強変数といい、系を分けたときに比例して少なくなる状態量を、示量変数という
と、いった形です。
今回の話には出ていませんが、内部エネルギー、エントロピーなどは示量変数になります。今の時点でこれらを理解する必要はないですが、次回ではいよいよ内部エネルギー、熱力学第一法則に入っていきたいと思います。
前回の記事:熱力学の視座 - Yukihy Life