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Yukihy Life

ゆきひーによる日常生活をアウトプットするブログ 映画・TOEIC・教育ネタとだいぶ物理とWeb制作

教育実習の体験記 未来型の授業であるピアインストラクションをやってきました

教育
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昔の教育の形態は、主に講義型の授業でした。授業を受ける側の生徒は椅子に座り、前で先生が説明をしたことをノートに写し、家に帰って復習をする。このやり方が最も効率的に知識を吸収させることができると考えられていて、実際僕もこういった教育を受けてきました。

しかし時代の変化により、いわゆる「無気力な若者」が増え、自分の意見を持たない、他に関心がない、先生が言っているから勉強をする。こういった子どもが増えてきました。

現在の教育の役割として、昔のように「生徒に知識を提供する」のみならず、「生徒の主体性を伸ばす」というものが重視されています。実際、通知表に「関心・意欲・態度」という欄がありますが、結局は授業中に手を挙げたり、ノートを細かくとっていれば評価されるので、現実的な意味で力を評価に反映できているとは到底言えません。

特に日本のみならず世界でも「理科離れ」が進む中、科学に対しての興味・関心が薄れている子どもが非常に増えています。

そうした中、今までの講義型の授業から生徒の主体性を意識した授業への転換が現在なされています。実際、今のクラスを授業参観すると、先生が50分講義を続けて、という授業は減ってきたように思えます。

 

Peer instructionとは?

Peer instructionとは、Eric Mazur さんがハーバード大学の物理の授業で行った授業形態です。授業の流れとしては、

①Concept testと呼ばれる、概念的な問題を提示(答えは4択問題など、選択制)

②クリッカーを使い、生徒の意見を集計(クイズ・ミリオネアのオーディエンスみたいに)このとき誰がどこに票を入れたかは分からない

③グループをつくり、それぞれの意見を言い合う

④もう一度クリッカーで生徒の意見を集計する

⑤教師による解説

というように進められます。ここで注目してほしいのは教師が発言するのは⑤からであるということです。いわゆる今までの授業では、生徒にあまり深く考えさせる前に、先生が答えを商品として提供してしまいがちですが、合っていようと間違っていようと生徒にとりあえず考えてもらってから教師が入るということです。

 

教育実習で実際にやりました

実際に僕が教育実習で行ったものを例にしたいと思います。

この授業は高校2年生に向けて行った授業です。以下はそのときのプリント

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今回の議論としては、

Q.ボールを上に投げると、ボールは上昇した後、下降する。投げられた後のボールにかかる力の説明として正しいものを以下から選べ。ただし、空気抵抗は考慮しない

選択肢

1上昇中も下降中も重力のみ

2上昇中は上向きの力、下降中は重力

3上昇中は上向きの力と重力、下降中は重力のみ

4上昇中も下降中も重力と上向きの一定の力

5その他

 

です。みなさんも一瞬ですので考えて欲しいです。

設備の関係でクリッカーが用意できなかったので、挙手制で行いました。この問題、答えは1です。ある程度学んだ人ならば、「重力しかかかってないでしょ」と分かると思います。しかもこの内容は、高校2年生が習うべき内容ではありません。中学でも習っているのです。

しかしほとんどの高校生が、3を選びます。少数ではありますが2や4も出てきます。この問題でほとんどの生徒は「ボールが上に行くときには、力も上にかかる」と、「速度の方向と力の方向が同じ」と勘違いをしてしまうのです。

高校で物理を履修した人は、運動方程式としてma=Fというものがあったと思います。mは質量、aは加速度、Fが力です。質量はkgなので定数となります。すると力と加速度が比例することになります。つまり力と関係していくのは「加速度」であって「速度」は関係ないということです。

例えば車が東に30km/時 でブレーキを掛けながら進んでいるとします。速度の方向は当然東です。しかしこの加速度は、ブレーキをかけているので減速しています。するとこの加速度は、東側にはマイナスになります。方向を逆にすれば西にプラスと言えるので、加速度の方向は西になり、速度の方向とは逆になります。このように速度の方向と加速度の方向は全く関係がないのです。

僕はここでそれぞれを選んだ人から意見を言わせました。もちろん少数派から指名していきます。すると教師では絶対に思いつかないような意見がたくさんでてくるのです。「なるほど!」と言いたいですが我慢ガマン。それらの意見を教室全体で共有します。プリントの中に「気になった友達の意見」というところにメモをとらせます。教員としては話を進めていくだけで、同意も反対も何も言いません

その後5分ほどとり、4-5人にグループ分けをして議論をさせます。「1人一回は必ず意見を言おう!」そう前置きをしてあるので、とりあえず1人1分ほどで考えを発表しあいます。適当なら適当でも良いです。生徒は喋ることで考えが整理されていきます。この間教師は各グループをまわり、議論を活性化させるところに重点を置きます。「向こうの班ではこういった意見が出たけどどう?」とか、正解にたどり着いている意見に疑問点を投げかけるときもあります。ここで普段考えたこともない「ボールを投げる」という単純なことに対して、科学的・論理的に考えようとします。

議論の途中で自分の意見が変わることは大変良いことなので、プリントにも「再び自分の考え」という欄を用意しました

その後にもう一度アンケート集計をします。今回はほとんどのクラスで意見が変わらずに2を選ぶ人が微増し、少数派がさらに少なくなりました。

ここから教師の解説が始まります。今回は間違えている人が多いため、最初に答えを発表します。すると間違えた人はなぜ間違えたのかを真剣に聞こうとするからです。

解説の流れとしては、詳しく書くと長くなるので、簡単に言えば2つのアプローチでとらえていきます

Ⅰ.「力の向き」と関係があるのは「速度の向き」ではなく、「加速度の向き」であるということを日常体験から説明(動いているものを止める状況を考える)

Ⅱ.中学のときに習ったように、力は重力と電磁気力のみ「離れて」かかるが、それ以外の力は「接していないとかからない」ことを強調

この2点を別々に整理させ、Ⅰから、「ボールが上に行っているからって、力が上にかかっていることとは限らないよね~」とし、Ⅱで「ボールが空中にあるときって、何も接していないよね(空気と触れているが、問題文により空気抵抗は省略している)」として、答えが1である説明をしました。

生徒に議論をさせるとき、生徒は論理的に話そうとするので、教師による解説も曖昧のないものにしなければいけません。その点が非常に難しいところでした。

何度も家で練習をして行ったので、もちろん改善点は山ほどですが、基本的に授業は成功に終わったと思います(思いたい)。

 

僕がこの授業で1時間使って伝えたかったのは、「物理で言う力とは何なのか」という点でした。結論として、この授業のまとめでは「力とは加速度を生じさせるもの」という結論までいけました。こうしておくことで、運動方程式の導入にもっていきやすくなりました。

前にも言いましたがこの内容は決して高校2年生が学ぶべき内容ではありません。中学で習っているはずの内容です。しかし実際にやってみると、教師から教わるスタイルでは、生徒は深くまで考えることができないため、特に概念的な内容では誤解が生じます。この誤解のまま授業を進めていくと、今後あるところで矛盾が出てきます。こういったとところを解消させるために、わざわざ1時間も使ってこういった議論をさせました。

この授業が終わった後、一部の生徒は本当にそうなのか問いただしてくる人もいました。また僕が嘘を教えていると思った生徒は、他の先生にわざわざ聞きに行ったりもしたそうです。どちらかというと物理に対して無関心の女子も、コメント欄で「今日の内容ってこういうことですか?」と確認のコメントをもらったりもできました。「ボールを投げる」という、赤ちゃんのころから体験している現象に、様々な疑問を持って考えてもらう機会を与えることができました。僕はその前に、講義型の授業も行ったりもしてたのですが、明らかに生徒の反応が違くて、ものすごく嬉しかったです。

 

Peer instructionの欠点

このピアインストラクション型の授業の欠点としては、

・授業準備に時間がかかる

・生徒にある程度の学力が求められる(議論する力・説明する力)

・1時間で進める内容が少ない

・授業が難しい

・本当に無気力な子は最初から最後まで無気力

というものがあげられます。議論に対して無気力な子へは正直講義型でも変わらないと思うので、根気強く議論に参加させて、考える機会を与えてあげるのが良いと思います。

ただ一番問題なのは1時間で進める内容が少なすぎることです。講義型の授業なら知識をまとめて提供できるので、1時間で非常にたくさんの内容を扱えます。しかしピアインストラクションは、議論の時間などにかなりの時間をとられてしまうので、この方法で一年間全て行うのはおそらく無理でしょう。「この授業ではやるけど、この内容は講義型でやろう」など工夫が必要だと思います。

また教師に対する負荷もハンパではなく、僕は教育実習生だったのでできましたが、毎日毎日激務をこなしている先生方がこの準備をするのは、ほぼ時間的に不可能でしょう。

しかしピアインストラクションの効果は大きく、実際にこういった授業を取り入れているクラスは成績が良くなるそうです。生徒に対するウケも良く、文部科学省が言うように「自発的に考える子」も育成ができます。

 

僕は未来にはこういった形態の授業が増えるのではないかと思っています。そのためには、前にも言いましたが「優秀な先生に教材研究させるだけの時間を与える」ことが必要不可欠です。

 

ちなみにPeer instructionはマニュアル本が出ています。

Peer Instruction: A User's Manual (Pearson Series in Educational Innovation: Instructor Resources for Physics)

Peer Instruction: A User's Manual (Pearson Series in Educational Innovation: Instructor Resources for Physics)

 

 Peer instructionをする際に、最も重要なのが議題の吟味です。1つの議題を深く掘り下げる形なので、議題がダメだと授業も失敗すると思います。この本はそんな自分で考えるのが難しい議題をリストにしてくれているものです。

 中身は全部英語ですが、図でだいたい雰囲気が分かります。日本でも広まると良いなと思います。