対象:中学生以上(話としては難しいです)
数式:ほぼなし
元記事①:子どもに「相対性理論って何?」と聞かれたときのために概要を分かりやすく簡単に解説してみた - Yukihy Life
元記事②:中学校で習う数学の範囲でアインシュタインの相対性理論を分かりやすく解説する - Yukihy Life
注:この記事は、元ページの補完的役割をしているものですが、独立して読めるようにはしてあります。
高校物理をやった方は、いきなり[4 「止まっている」ことと「等速で動く」こと]に飛んでもOKです。
1 慣性系とは?
特殊相対論が成り立つのは、慣性系のみです。このあたりは元記事①からきた方には説明をしていないので、慣性系の説明をします。
[元記事②から来た人はスキップ開始*1]
慣性系…静止か、等速直線運動をしている世界のこと。
例えば僕たちがスタバの椅子に座って眺めている世界は慣性系の中の静止系という。
また等速で動いている電車の中の世界は慣性系の中の電車の系という。
少しややこしいかもしれませんが、簡単に言えば
①「スタバの椅子から見える世界」(上の文の静止している世界=静止系)
②「等速で動いている電車の中から見える世界*2」(上の文で、等速運動している世界=等速で動く系)
ここでは電車にしましたが、等速運動するものなら新幹線でも何でも良いです。
これら①・②のことを合わせて「慣性系」と言います。
慣性系と対をなすのが「加速度系」です。つまり加速している世界となります。
加速度系…加速している世界のこと
ここでは加速としていますが、減速することも“マイナスに加速する”とすれば加速していることになるので、減速も加速度系に含まれます。
加速度系…加速(減速)している世界のこと
例をあげると
③「加速(減速)している電車の中から見える世界」(加速度系)
とできます。
1のまとめ
日常生活では、世界を①「静止系」②「等速で動く系」③「加速度系」の3つに大別できる。*3
①・②のことを合わせて「慣性系」と言い、③を「加速度系」別名「非慣性系」と言う。*4
[元記事②からきた人スキップ終わり]
2 3つの世界を2つに分ける
スキップした方のために、要点をもう一度書いておくと、僕たちの周りは
①「静止系」ex.スタバの椅子から見える世界
②「等速で動く系」ex.等速で動いている電車の中から見える世界
③「加速度系」ex.加速(減速)している電車の中から見える世界
の3つに分けられます。この記事を見ている今も、このどれかに当てはまると思います。
さて、この3つの世界を2つに分類してくださいと言われたら、皆さんはどのように分類しますか?
つい「①」と「②&③」で分けませんでした?
おそらくこのように分けた方は「止まっている」か「動いているか」で分けたと思います。
確かにこのような分け方をすると、①「静止系」と②「等速で動く系」&③「加速度系」に分かれます。
しかし物理では「①&②」と「③」で分けます。これは①と②を「慣性系」とひとつにくくっていることからも明らかなのです。なぜこのように分けなければいけないのかを次に見ていきます。
2のまとめ
①「静止系」ex.スタバの椅子から見える世界
②「等速で動く系」ex.等速で動いている電車の中から見える世界
③「加速度系」ex.加速(減速)している電車の中から見える世界
の3つの世界を、“直感”で考えるのならば
「①」と「②&③」
「動いていない」と「動いている」と分けたくなる。
しかし物理ではこれらを
「①&②」と「③」
「慣性系」と「加速度系」と分ける
3 物理法則は加速しているかどうかで決まる
2のまとめをもう一度書きますと
①「静止系」ex.スタバの椅子から見える世界
②「等速で動く系」ex.等速で動いている電車の中から見える世界
③「加速度系」ex.加速(減速)している電車の中から見える世界
物理では「①&②」と「③」、「慣性系」と「加速度系」と分ける
なぜこのように分けるのか、経験則から見ていきます。
・例えば止まっている電車の中に座っているとします(①静止系)。止まっているのでまっすぐ座れます。
・電車が動き出し、加速を始めました(③加速度系)。すると体は傾いてしまいます。おなじみの「慣性力」というのがかかっているからです。
・その後電車は同じスピードで進みました(②等速で動く系)。この場合、体はまっすぐに座れると思います。
・最後に電車が減速します(③加速度系)。また体は傾いてしまうでしょう。
この経験則からも、「①&②」と「③」で分ける理由が分かるのではないでしょうか?③の「加速度系」のときのみ、余分な力*5がかかってきてしまうのです。
「①&②」は、加速はしていません。(ここで、②は動いていますが、「加速」はしていないことに注意してください。)
極端なことを言えば、等速で動いているものの中ならば、物理法則が変わらずに*6野球だってサッカーだって、地上にいるのと同じようにできてしまうのです。
しかし加速したり減速したりする中では、とてもじゃないですが体がぶれてスポーツなんてできません。
まとめ3
電車の中という経験則から、
「①&②」では物理法則は変わらない(体は傾かない)
「③」では物理法則が変わってしまう(体が傾いてしまう)
よって、物理では「①&②」と「③」つまり
「加速していない(慣性系)」と「加速している(加速度系)」というように分類する。
ここまでつまらないことばかり言ってきましたが、4でこの記事で一番言いたかったことをまとめます。
[やや発展]
古典力学の基本法則は、高校の物理で習うです( は質量、は加速度 、は力)。つまり「力」がかかるという物理現象は、物体の「加速度」に影響をします。
「加速度」は「速度」と関係がありますが、「力」と「速度」は直接の関係がないことに着目しなければいけません。
逆に言えば「加速」しているというのは「力」がかかっている場合であり、「静止」していたり「等速」で運動している状態というのは加速していないので、「力」はかかっていないと言えます。
このことから3つの状況を「①&②」と「③」に分けられると言えます。
[やや発展終わり]
4 「止まっている」ことと「等速で動く」こと
いきなりここにとんできた方のためにまとめます。
①「静止系」ex.スタバの椅子から見える世界
②「等速で動く系」ex.等速で動いている電車の中から見える世界
③「加速度系」ex.加速(減速)している電車の中から見える世界
と3つの世界を考えると、物理では「①&②」と「③」。
つまり「加速していない」か「加速している」に分かれます。ということです。
[静止とは?]
最後は少し哲学っぽくなります*7。
僕は今、スタバの席からこの記事を書いています。スタバの席なので、系で言えば①の「静止系」です。この記事の中でもずっとスタバの席というのは「静止系」として扱ってきました。
しかし本当にそうでしょうか?
このスタバの席というのを、「僕の目」から見れば、それは間違いなく静止しているでしょう。しかし考えてみると、「地球」というのは自転をしていますよね?そう考えるとスタバの席というのは「静止」とは言えないのではないでしょうか*8。
さらに言えば「地球」というのは静止しているでしょうか?違いますよね。地球と言うのは「太陽系」の中心にある太陽のまわりをすごいスピードでまわっています*9。
「太陽系」は「天の川銀河」のまわりをこれまたすごいスピードでまわっています*10。
それじゃあ銀河の中心は静止しているのかと言うと決してそんなこともなく、宇宙全体は日々動いているのです。
[速さの本質と静止の意味]
ここまで書いてみると、速さというものが何なのか見えてきます。
速さとは“止まっているある点から見るもの(絶対的)”ではなく、“動いている「何」から見た、動いている「何」の速さ(相対的)”と比べなければ意味はなさないのです。
また、このように考えると「静止」という言葉の無意味さにも気づくと思います。
僕は「静止」していると思っていても、天の川銀河の中心から見るとものすごいスピードで動いているわけですし、そもそも静止しているところなんて宇宙上にまだ見つけられていないのです。
[日常的な静止と、物理学上の静止]
日常的に使われている「静止」とは、“地球上の人から見ると”という部分が省略されています。
スタバの例だと、「僕はスタバの席で静止している」という文は誤りで、「僕から見ると僕はスタバの席で静止している」と相対的に使われなければ意味はありません。*11
もっと過激なことを言えば「静止という言葉は地球人の都合で作られた地球人のための造語」とも言えます。全ての生き物が地球で生きているとの仮定の上の言葉であって、地球の外から見れば静止していない訳ですから。
もし僕等よりも文明の発達した宇宙人が来て、僕たちと意思疎通ができるようになったとしても、宇宙人は「静止」なんて言葉持っていないんじゃないかと思います*12。
[まとめ2・まとめ3は嘘]
話を元に戻すと、まとめ2とまとめ3で、
①「静止系」ex.スタバの椅子から見える世界
②「等速で動く系」ex.等速で動いている電車の中から見える世界
③「加速度系」ex.加速(減速)している電車の中から見える世界
というのを「①&②」と「③」に分かれると言いました。しかしこれは嘘です。①の静止しているというのはありえないからです。
「静止」という言葉を、日常的には使っても良いかもしれませんが、それを物理法則の一つとして特別視することは不可能なのです。僕たちはまだ静止とは何なのか分からないのですから。
それでは「ex.スタバの椅子から見える世界」はどのように解釈されるべきなのでしょう。
これは静止している訳ではなく、太陽から見ても、銀河の中心から見ても、ほぼ等速で運動しているとして良いでしょう*13。つまりこの例は②に加えるべきなのです。
①「静止系」はありえない
②「等速で動く系」ex.等速で動いている電車の中から見える世界&スタバの椅子から見える世界
③「加速度系」ex.加速(減速)している電車の中から見える世界
つまり僕たちが日常的に感じている「静止」というのは、「等速で動く系」に加えられます。これが今まで「①&②」とひとくくりにされていた理由でもあるのです。
5 全体のまとめ
結局今回言いたかったことは、「(絶対的な)静止系というのは存在しなく、(日常的に言う)静止していることと等速で動いていることは区別がつかない」というものです。
このことを特殊相対性原理と言います*14。
少し分かりづらい文章になってしまいましたが、ご了承ください。
この「特殊相対性原理」と、もう一つの「光速度不変の原理」という2つの原理から特殊相対論は出来上がります。
特殊相対性原理は、シンプルに説明できたのですが、いずれ書こうと思っている
コラム 特殊相対論はどのようにして生まれたのか(未完成)
で記事にするときに説明しやすいように、少し遠回りして書きました。
*1:とは書いたが、もう一度読むことを推奨します
*2:[発展]本来は直線運動という条件も必要
*3:「系」という言葉が嫌な人は、その部分を「世界」と変えると分かりやすくなるかもしれません。
*4:「非慣性系」というのはややこしいので、この記事では今後使いません。
*5:慣性力
*6:慣性力などの余分な力がかからずに
*7:物理学とはそもそも「時間とはなんだろう」など、哲学から派生したものです。
*8:地球の自転速度は約500m/秒
*9:約30km/秒
*10:約600km/秒
*11:こんなことばっかり言ってると嫌われるので注意してください
*12:こんなことばっかり言ってると嫌われるので注意してください
*13:実際は軌道は若干曲がるので、加速度系に入れるべきですが、大きなスケールで見たとき、ほぼ等速となるので等速とします
*14:[発展]よくある解説本で、「静止系と等速度系の両方は物理法則が変わらないので、両者は同一と見なせる。これを特殊相対性原理と言う」と説明されているのを見るが本質でない。特殊相対性原理の本質は[絶対的な]静止系の否定であり、[絶対的な]静止系を選び出すことは不可能というものである。