対象:制限なし
数式:なし
この記事は元記事の補完的な役割を果たしていますが、元記事を読まなくてもわかるようにしてあります。
はじめに
日本は原発事故を起こし、原爆を落とされ、つくづく原子力と縁のある国だと思います。そんな原子力ですが、もともとはアインシュタインの相対性理論からうまれたものだというのは、思った以上に広まっていないのではと思います。また誤った情報が広がっています。今回は、原子力の仕組みと、それと相対性理論との関係を説明していきたいと思います。
アインシュタインの式
元記事を読まれていない方へ
元記事から来た方はスキップしてもらって構わないのですが、この記事から読まれている方のためにアインシュタインの式というのを簡単に説明しておきます。
アインシュタインの式とは
のことです。ここで、それぞれのパラメーターは
:エネルギー
:光速(光の速さ)
のことを表しています。
おそらくほとんどの人が目にしたことがあるように、この式は物理学の中で、最も有名な式だと思います。すごくあっさりとこの式の意味を言うと
エネルギーと質量は比例する
というものです。
つまり重いものはそれだけでエネルギーが大きく、軽いものはエネルギーが小さいということです。
ここで注意してほしいのは、体重が重い人が軽い人の方よりも力があるということではなく、「重さを全てエネルギーに変換すると」重い人の方がエネルギーが大きくなるということです。
これ「エネルギーと質量は比例する」ということの何が凄いのかが分かりづらいのでもう少し説明すると、「エネルギー」という意味を根底から覆すものだったから凄いのです。
今まで「エネルギー」とは、何らかの力
*2が働いていたり、ものが動いていたり・熱があったり、電気が流れていたり、僕らの直観で「あっ、何かエネルギーが働いてそう」と思えるものだけがエネルギーと呼ばれていました
*3。
しかし
は、「
何もしていなくても質量さえあれば、それはエネルギーになる」ということになります。そう、例えそれが熱がなくても、止まっていても。
あまり使われない言葉ですが、物理では「静止エネルギー」という言葉があります。
静止エネルギーですよ。常識的に考えて何もしてないのにエネルギーなんてあるわけないやん…って思いますよね。こういった非常識的なことを表しているのが
であるのです。
エネルギーも質量も、元は別なものだと考えられていました。難しい言葉で「エネルギー保存則」と「質量保存の法則」という言葉があります。それぞれ、エネルギーと質量が保存されるということです。何もないところからエネルギーは生まれないし、何もないところから質量のあるものは生まれない。そう考えられていました。
しかし
によれば、エネルギーが減って質量がうまれたり、質量が減ってエネルギーがうまれたりする。
エネルギーと質量は、それぞれ保存されるものではなく、「エネルギー+質量」と合計で保存されるものだったのです。
余談ですが、物理のこういった概念的に分かりづらく、非日常的なことというのは、基本的に数式によって予言されることが多いです。
*4
こういったことを見ると数学というものの可能性を感じますよね。
話をもどして、言いたいことは、「エネルギーと質量が、変換できるもの!」ということなのです。物理では「エネルギーと質量の等価性」という言葉で言われます。
そして、ただ変換されるだけでなく、エネルギーと質量が比例することまでつきつめました。これが
です。
化学反応と、質量保存というウソ
これが原子力発電とどのような関係があるのかを見ていきます。
ウラン核分裂反応
ウランという物質を例にとります。
ウランという原子は、「ウラン238」と「ウラン235」とあります。「ウラン238」は基本的に安全な原子なのですが、ウラン235の方が危険なものになります。何が危険なのかというのを一つ一つ説明します。
ウラン235に「中性子」という粒子を衝突させると、核分裂を起こして2つ以上の「核分裂片」と「中性子」を放出します。
このとき、核分裂反応によって、再び「中性子」を出すことに注目してください
*5。この出された中性子は、再び他の「ウラン235」の核分裂を促すスイッチとなます。
つまり一回「ウラン235」に「中性子」を当てると、芋づる式にどんどん反応が起こってしまうのです。
これを核分裂の「連鎖反応」と言います。よくニュースに出てくる「制御棒」は、中性子の数を調整する役割があります。それにより、反応の速さを調整しているわけです。
先ほど紹介したサイトに分かりやすいアニメーションがあるので、リンクを貼っておきます。
ラボアジエの質量保存の法則
ここで一旦話を18世紀後半に戻します(相対性理論は1905年)。
中学の化学の授業で、「質量保存の法則」というのを習ったのを覚えているでしょうか?
もう少し戻ると、「水素と酸素を化合させる実験」というのを覚えているでしょうか?水上置換法で集めた水素を試験管に入れて、マッチで燃やすと「ポンっ!」と小気味よい音を立てて水ができるというやつです。これを化学式で表すとこのようになります
*6。
水素と酸素が化合すると、水ができるという反応です。
ここで今話したいのは、図の左辺と右辺では、合計の質量が変わらないという法則があります。
これを「質量保存の法則」と言います。なんかイメージ的にもつきやすいですよね。
間違っているというか、この法則ができた18世紀後半での実験の精度では、このような法則のように見えるということです。
時代が変われば実験の技術は高まってきて、より精度の高い実験ができるようになり、既存の法則が適用されなくなるということはよくあります
*8。
さきほども言ったように、「質量保存則」でなく「質量+エネルギー保存則」が成り立つのでしたよね。
「質量」保存はしない「質量+エネルギー」保存をする
さきほどのウランの図を貼ります
これは、天秤で表すと、実はこのようになります。
つまり左辺の方が重く、化学反応によって、質量の一部がどこかに飛んでいってしまったのです。
ではどこに飛んで行ったのか?それを示す答えが
になります。
つまり飛んでいった質量は、「エネルギーと質量の等価性」によって、エネルギーにとって変わられます。そしてエネルギーになり、どこかへ飛んで行ったということです。
つまりこの実験事実が、
を表すことになっているのです。
原子力発電
原子力発電の話に戻ってこれました。原子力発電は、上で得られた「質量の減少によるエネルギー」を使って、発電しています
*9。
莫大なエネルギー効率
原子力発電というと、とにかく「発電効率が良い」ということがあげられますよね。これはなぜなのかと言うと[E=mc^2]を見ることで分かります。
を見ると、エネルギーと質量が比例すると言いましたが、その比例定数である
、ここで
は何なのかというと光速(光の速さ)でした。
光の速さというのは、1秒で地球7周半移動し、数で表すと真空中では
(m/s)
(m/s)
です。これの自乗は、
(m/s)
となります。とんでもなく大きな値ですよね。
こんなに大きいものが質量に掛け算されるので、本当にごく少量な質量でも、エネルギーに換算すると莫大な数字になります。実際、さっき出した図
このように人間ほどの体重が、全てエネルギーに変わったら、原発どころではない騒ぎです。「エネルギーありそうやわ~」どころではありません。地球が滅びます。
だいたい1g(つまり一円玉)が全てエネルギーに変わると、約8万世帯の一か月分の消費電力がまかなえるそうです。恐るべしですよね。
このようにごく少量の質量から、莫大なエネルギーを得ることができるので、発電のみならず、爆弾としても使われてしまいました。
原発などの解説は以上となりますので、以後興味ある人のみお読みください。
アインシュタインと原爆
「原爆はアインシュタインがつくった」
これはいろんなところで良く言われていることです。これは半分あっていて、半分間違っているでしょう。
もちろんアインシュタインが手でコネコネして原爆を作ったわけではありませんが、アインシュタインの歴史を簡単に見ていきます。
アインシュタインは、ドイツ生まれのユダヤ人です。天才なのも持ってうまれたということでしょうか。
しかしアインシュタインは学校でも行動がとろく、よく仲間から「ノロマ」と言われていたそうです。
スイスの大学に進学しますが、成績は良かったわけではなく、物理実験の評価は最低の1、実験中によく爆発も起こしたりしていたそう。
大学卒業後は、スイスの国籍を取得し、スイスで公務員として特許に関する仕事をしていたことも有名です。
スイスは時計産業が世界でも群を抜いて発達しており、アインシュタインの元にはたくさんの時計に関する特許の申請があったと言います。アインシュタインはそれによって時間を考えるようになった。なんて本当かどうかも分からない話があったりもします。
そして1905年、この年は物理学史の中でも「奇跡の年」と言われています。今年は奇跡の年から110周年ですね。アインシュタインはこの年に「光電効果」「ブラウン運動」「特殊相対論」という超ヘビー級の論文を立て続けに3つ提出。
これは一つ一つがノーベル賞ものであり、物理界に革命を起こす論文でした。だって相対論を超簡単に言うと「まだニュートン力学で消耗してんの?使えないよその理論」だからです。
余談ですが、アインシュタインは「相対論」でなく、「光電効果」でノーベル物理学賞を取っています。ノーベル賞は、同じ分野では取れるのは1回だけであり、当時はまだ相対論を証明する実験が無かったからみたいです。
*10
そしてその2年後の1907年、アインシュタインは相対論の理論から
が導かれることを証明します。
時代は1914年、第一次大戦です。アインシュタインは平和主義者でも有名であり、徹底的に戦争反対を唱えます。しかし国際事情は無残で、1919アインシュタインの故郷のドイツは敗戦。
それのみならず、ヒトラーによるナチスが力をつけてくると、ユダヤ人であるアインシュタイン相対論に対してドイツでの風当たりは強く、アインシュタインはアメリカに逃亡、ドイツに戻ることはありませんでした。
第一次大戦、第二次大戦は「科学戦争」で代弁されるように、科学による兵器が大きく発展したときでもありました。こうした負の背景ではありますが、科学は大きく発展し、上に述べた原発に関する開発も次々に行われるようになってきます。
それはアインシュタインの理論を裏付けるものであるとともに、アインシュタインの望みでもある「平和」を打ち壊すものでもありました。
1939年、ドイツによる勢力が拡大すると、それを食い止めるために、アインシュタインは、当時のアメリカの大統領であるフランクリン・ルーズベルト宛てに「原子力とその軍事利用の可能性」に触れられた文章を届ます。
これは実際にはアインシュタインは書類にサインをしただけで、文章を作成したわけではないのですが
*11、その絶大なる影響力がある人間であるがため、一般的には
「アインシュタインのルーズベルト大統領への手紙」とされています。
簡単に言えば、アインシュタインがルーズベルトに対して、原爆開発のGoサインを出したということです。
そしてその原爆は、無残にも目的であるドイツではなく、日本に向けられてしまいました。
1945年5月7日、ドイツは降伏、ここにおいて原爆の役割は終わったはずですが、アメリカは必死の抵抗を続ける日本への使用に方向転換しました。
アインシュタインは平和主義であり、日本を心底愛していました。アインシュタインは1922年に日本に来ています。そしてその滞在中に「日本滞在印象記」を書いています。
「日本人のすばらしさは、きちんとした躾や心のやさしさにあるということを、われわれ外国人はじゅうぶん承知していますが、さらに日本社会に対するイメージは、活字になったものであれ、そうでないものであれ、そのようなすばらしさをよりいっそう外国人に強く印象づけているのです」
「この国に由来するすべてのものは、愛らしく、朗らかであり、自然を通じてあたえられたものと密接に結びついています」
「礼儀正しい人々の絵のように美しい笑顔、お辞儀。座っている姿にただただ驚くばかりですが、しかし真似することはできません」
日本人から見ても背中がかゆくなる文章ですが、その日本への愛が伝わってくるでしょう。祖国ドイツを食い止めるためにサインしたことも心苦しかったと思いますが、実際に自分が作った理論である原発が日本に落とされたのを聞いて、アインシュタインはどのように感じたのだろうかと思ってしまいます。
1955年の「ラッセル・アインシュタイン宣言」というものをご存知でしょうか?これはイギリスの哲学者ラッセルと、アインシュタインが中心となり、冷戦中にアメリカとソ連で競争するように行われていた核兵器の水爆実験を廃止し、科学技術の平和利用を訴えた宣言文です。科学者平和宣言とも言われています。
この宣言は当時、最先端で活躍する科学者の署名がされており、日本人の湯川秀樹のサインもあります。
アインシュタインが亡くなった3か月後に発表されたことから、「アインシュタインの遺言書」とも言われています。世界に発信された科学者のスタンスを表す文章、中には「広島」という言葉も含まれています。当事国である日本人がこれを読まない訳にはいかないと思っています。一度は読んでみてください。
先日、ある映画雑誌に掲載されていたキャメロン・ディアスのインタビュー記事を目にした。最後の質問で、何か知りたいことがあるかと尋ねられた彼女は、
がいったい何を意味するのか知りたいと答えてきた。ふたりは笑い、そしてディアスの「本気よ」という言葉で記事は終わっていた。そのとき私は思った。
という方程式が重要な意味を持っていることは誰でも知っているが、その意味を真に理解している人は少ない。
世界で一番有名な式
は、広島・長崎・福島と結びついている。日本人にとって、アインシュタインは他国以上、少なくともキャメロン・ディアスよりは特別な存在であること、そして理科室の壁のポスターにある
が、一旦日本を壊滅させたことは、知っておく価値があるかなと思います。
参考図書
メインの参考図書は一番上のです。